2009年12月11日

12月12日勉強会に当たって 足立 誠之


=12月12日勉強会に当たって=

予定説と因果律から成り立つ天皇制尊属の基盤

   坦々塾会員 足立誠之

 正論1月号に書かれた工学院大学教授松浦光信氏の論文「平成臣民論」を読み、天皇制について考えました。読んで大雑把な内容ですが氏の論文を私なりに次のように受け止めました。氏は北畠親房の神皇正統記を取り上げ、それは一種の放伐論に陥るのではないかとの見方を照会し、更に山崎闇斎から周の武王に言及し、そのすえに吉田松陰を引き合い、にしています。

 氏の議論は臣下が天皇の徳をが論じることは臣下の卑しさを露呈するものであり、ひたすら天皇に忠節を尽くすべしとの結論のように受け止められます。 こうした論理には何かいかにもこじつけのように感じられ、私にはどうもピンとこないのです。

 氏は七代将軍吉宗が暗愚な長男を後継にしたことを以ってお家騒動を避けるためには徳を以ってではなく長子を原則として家督を引き継ぐのが至当ということまで天皇の徳を臣下が論ずべきでない理由としています。然し、武烈帝のケースや承久の乱のケースは例外的なものであり、天皇の継承の際に常に徳が問題とされるものでもありません。
武烈帝や承久の変、後醍醐天皇と南北朝なども例外的なものとしてみることができるでしょう。

 氏の説明で特に目を引いた点は、キリスト教のマタイ伝まで引用していることです 。

即ち神は絶対であり人がどれほど神を祈っても、善行を重ねても神の及ぼす力に影響を与えるものではない、とされることです。宗教学上「予定説」と言われるもので、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教が之に当たるとされています。神は絶対であり人がその絶対の神の意志を変えることはあり得ないのです。

 之に対して仏教は、「因果律」が支配しているといものであり、儒教も大きな意味では同様でしょう。孟子の易姓革命論、放伐はそれです。

氏の天皇論、忠義論は天皇は絶対であるという点でそれは臣下の徳を云々することを超越したものであるという点でキリスト教と同様「予定説」です。これと対比されるのが孟子の易姓革命即ち因果律です。

 因果律の支配する中国では一つの王朝が永続することはありませんでした。又、ヨーロッパでは神が絶対であるということから王権神授説が登場しました。然しその王権神授説に則った王室は現在はそんざいしません。
18世紀に現れたルソーやモンテスキューの啓蒙思想がそうした王権神授説を打ち破ったとのことですが、そもそも現実世界と予定説はなじまないと考えられます。

 つまり「予定説」を王権の根拠とする王室制度は現実世界では非常にフラジャイルなものであることを歴史が示しています。
しからば天皇制(これを共産党が始めに用いたことからその使用をとがめる向きもありますが、敢えて使用します)は何故かくも長い間続いてきたのか。ここからは私見です。
それは天皇制が予定説と因果律を融合した柔構造の上に成り立っているからであると考えられます。

 承久の変に際しての北条泰時と北条義時の間でかわされた有名な問答、若し主上が錦の御旗を持って征伐に当たられたらどうすべきかという問いに「その時は下馬しひれ伏して恭順の意を示す他はない」と応えているわけで、正に予定説と因果律が柔構造として成立しているわけです。

 日本の皇室制度、天皇制が他の世界に類を見ないほど続いている秘密はこの予定説と因果律が融合した柔構造にあると私は考えます。
そして予定説、因果律いずれも「信ずる」ことから成り立つものであり、その信仰はそれ自体についての是非を議論することは余り意味がないでしょう。
日本の天皇制が続いた理由はこうした予定説、因果律を柔構造ならしめる備えがあったことも重要でしょう。複数の宮家がそんざいしていたことはその予定説的なものと因果律的なものとの重層的な柔構造を組み込む"手段"となっていたと考えられます。
仮に因果律で天皇が替わったように見えてもそれは別の天皇に引き継がれるわけであり、易姓革命は存在しないからです。
所いわゆる 女系天皇の問題も、この「信じる」という点から日本ではいちどとしてあったことがないのであり、それは正に予定説的存在でしょう。

 日本の天皇制だけがこれほど長く続いている理由はそのような予定説と因果律を融合したものであるからですが、その奥底にあるものはそれがおおくの人にとり常識的なものであり捨て去り難いものであるからであり、しかもその形において人々が安心して信じられるからでしょう。予定説のみが支配していても、因果律だけが支配していても天皇制は尊属できないと私は考えます。
posted by 坦々塾事務局大石朋子 at 19:31| Comment(0) | 読書感想文 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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