2009年06月16日

『中国大逆流』を読んで西沢裕彦


『中国大逆流』を読んで 
                
         坦々塾会員 西沢 裕彦

 石平氏の『中国大逆流』を手に取りました。人には時代との巡り合わせがあることを思います。(第二次)天安門事件に大学時代巡り合ったことが石平氏の人生を決定しました。石氏は日本に留学していて事件の現場に居合わせませんでしたが北京大学で酒を呑み交わし民主化運動を闘った同志たちは現地にいました。

 第一部はそのかつての同志たちと何年ぶりかで北京で再会したほろ苦いセンチメンタル・ジャーニーが悲憤、慨嘆の想いを籠めて綴られていて小説をひもといている気分になります。学者となり政府から引き出した研究費で日本製の高級デジカメを買うようないじましい横領に走るA君、共産党幹部に賄賂を渡して汚職堕落させることは「銀弾による共産党打倒」につながると牽強付会な詭弁を弄する羽振りのよい不動産業者のE君、毛沢東信奉者でガチガチの中華思想に染まった骨董品のようなG先輩。北京へのセンチメンタル・ジャーニーの後石氏はペマ・ギャルポ氏の紹介で知り合った在日の中国人民主化運動のリーダー三人の一人一人にインタビューします。

 都内の飲食店でたまたま石氏、ペマ氏らと近くの席になったことがありました。どうもその時石氏は三人を紹介されていたようで私が五人の記念撮影のシャッターを押したようです。その三人も石氏同様「天安門事件」の大波動に体内の血が共鳴しルビコンを渡ったのです。第二部では中国の2ちゃんねる「強国論壇」の論調が紹介されています。かつての反日や愛国論がずいぶん減って現在は中国国内の矛盾ぶりとそれへの批判が圧倒的です。そして毛沢東崇拝が氾濫しています。ネット上の毛沢東崇拝のメッカは「烏有之郷」というサイトで烏有郷とはユートピアのことです。そこにもケ小平の唱導した市場経済がもたらした社会矛盾への不満が噴き出していてケ小平批判が渦巻き毛沢東路線へ回帰しようとする揺り戻しの動きが起きているのです。これが本書のタイトル『中国大逆流』の深意です。第三部でこの反動の底流を分析しています。そのキーは「天安門事件」にあると石氏は観ています。

 ケ小平は「天安門事件」で閉塞沈滞した国内状況を打破しようと乾坤一擲の賭けに出ました。それは市場経済への全面移行を呼び掛ける「南巡講和」でした。経済破綻した共産党強権国家ルーマニアの権力者チャウシェスクの悲惨な末路に恐懼したケ小平は人民の貧しい生活を憂えたのではなく人民の不満が権力者に向けられ彼らの血祭りになることを恐怖したのです。石氏が指摘するケ小平の失敗は共産党の腐敗に目をつぶったことでした。共産党の腐敗がこれほど深刻な社会問題となることを見通せずこれが中国の民主化運動の起爆剤となりました。昨年末ネット上で立ちあがった民主化ガイドラインとしての「0八憲章」は当局の取締まりで署名者数は伸び悩み知識人レベルの民主化運動は低迷しています。一方社会矛盾と生活苦に直面している下層大衆は毛沢東崇拝に走っています。それを看て取った共産党幹部の中には湖南省省長の周強のように韶山の生家の毛沢東像に献花し三度の礼で参拝し、副総理の李国強も韶山の毛沢東広場にわざわざ立ち寄り銅像に拝キしました。胡錦涛の後がまナンバーワンの習近平は発表した論文で「党の建設の基本は毛沢東思想である」と強調し、薄煕来は毛沢東時代の「革命歌曲」を青少年に唄い奏するよう強制しています。下からの造反ではなく、党内の一部勢力と民衆との結託による毛沢東思想に先祖返りした革命が中国の近未来に起こるだろうと石氏は分析しています。歪んだウルトラ・ナショナリズムに呑み込まれる中国は石氏の望む中国ではありません。

              (おわり)

DSC_0002.JPG

写真はベストセラーズの佐藤さんと「中国大逆流」


posted by 坦々塾事務局大石朋子 at 21:31| Comment(0) | 坦々塾報告 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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