2009年06月01日

原子力ビジネスからみえる国際政治第一回


「原子力ビジネスからみえる国際政治」

第一回


   坦々塾会員 平田文昭


平成20年8月9日にゲスト講師として呼んでいただいて以来のご縁です。6月6日の坦々塾を楽しみにしています。各分野の講師の方々のお話を伺い、議論できるのは有意義なひと時です。

昨年8月には原子力のお話もさせていただきました。それに関連して、最近私が注目していることを記してみます。

去る1月15日、アラブ首長国連邦(ドバイやアブダビなどの7つの首長国からなる連邦)は、アメリカと原子力協定を結びました。「核の平和利用」での協力が目的です。

これは注目していい情報です。原子力ビジネスが行われるためには、その地域が政治的に安定し、平和であることが必要です。戦争の危険があるところでは原子力ビジネスは出来ません。アラブ首長国連邦は、ペルシャ湾を挟んでイランの対岸です。この地域で対イラン戦争のような事態が起これば、原発の建設は不可能です。


4月14日の新聞は、日本―ヨルダン原子力協定の締結を伝えました。あのヨルダンが2030年にエネルギー自給率100%を目標に2017年に原子力発電所一基の運転開始を目指しています。ヨルダンは、シリア・イスラエル・サウジ・イラクと国境を接しています。

これらからおぼろげながら浮かび上がってくるもの、それは、ほぼ旧イギリス領パレスチナ(現在のイスラエル、パレスチナ自治区、ヨルダンhttp://wapedia.mobi/ja/%E3%83%91%E3%83%AC%E3%82%B9%E3%83%81%E3%83%8A)からイランにいたる地域に、平和状態をもたらそうとする国際的な動きです。

2007年12月、アメリカの政府の情報機関が合同して行った発表において、イランの核開発を否定しました。イランとの戦争の口実をアメリカ自身が否定しました。今年2009年4月5日、オバマ大統領はプラハの演説において、クリントン大統領が署名しながら批准に至らなかった、包括的核実験禁止条約の批准を急ぐ意思を表明しています。

来年2010年5月には、5年に1度の核拡散防止条約(NPT)再検討会議が開かれます。政府はオバマ演説を受けて、2010年の早い時期に「世界的な核軍縮に関する国際会議を日本で初めて主催する方針を決め」ました。(日経4/26)

こうして核軍縮で走り出した日本は、5月3日カイロ訪問中の中曽根外相に対して、エジプトのアブルゲイト外相から「イランの核開発問題に関し「(同国と対立している)イスラエルの問題の側面がある」との認識を表明」され、中曽根外相が「イスラエルが核拡散防止条約(NPT)に加盟するよう粘り強く求めていく」と述べ」るに至っています。(日経5/4)

中東世界で核軍縮を言い出せば、必ずイスラエルの核保有問題にぶつかる。オバマ演説を受けて動き出した(らしい)日本は、ついにこの領域に足を踏み入れつつあります。核軍縮の本当の狙いは、イスラエルの核にあり、その無害化を目指していると見ることは可能です。

4月20日 イランのアハマディネジャド大統領は、国連の人種差別撤廃会議でイスラエル政府を「残虐で人種差別的な体制」と批判し、欧州の一部の国の代表団が退席しました。アメリカ・イスラエル・ドイツ・イタリア・オランダ・ポーランド・カナダ・オーストラリア・ニュージーランドは始めから不参加です。(日経4/21)

アハマディネジャド大統領は、反米、反イスラエル発言をするほど人気が出るようですが、アメリカは2005年にはイランの核開発を肯定しながら2007年には否定して戦争の口実を封じています。

対決一辺倒だったアメリカの対イラン政策の変化の背景としては、一つにはアフガン安定化のためにはイランの協力が不可欠であること、一つは中東での原子力ビジネスの展開、といった理由が考えられます。

アフガニスタンの安定化。地図を見れば一目瞭然ですが、アフガニスタンの西の国境はイランに接しています。地図上の直線距離でも1000キロを越えます。1857年のパリ条約でイギリスの要求に屈して放棄させられるまで、アフガニスタンの西部ヘラート一帯はイラン(当時はカージャール朝1796〜1925。尚1925〜79パフラヴィー朝。その後が現在のイスラム共和国)の領土でした。パキスタンと接するアフガニスタンには、パキスタンと同民族のパシュトーン民族が多いですが、西部はイラン系の民族が多く住みます。

アフガン西部の重要都市へラート。古くからトルコ(系)とイランの両帝国の係争地であり、イスラム神秘主義の中心地の一つでした。1222年にはチンギスハンが侵略し40人を残して皆殺し。1405年からはチムール帝国の首都となり、ムスリムの文化の華が咲いたところです。1885年に英国が大規模な破壊を行い、次いで1980年ソ連が侵略。ソ連のアフガン侵略の中で最も多くの市民が犠牲になった都市といわれています。ソ連の次は1995年にタリバンの侵略です。タリバンにとってはパシュトゥン人が少数派である地域を支配するのはヘラートが初めての経験となります。

このヘラートを通ってイラン、中央アジアへ抜ける道路は重要な物流資産です。ここを通って運ばれるのは生活物資だけではありません。東のパキスタンは親アメリカでいいとしても、西のイランから武器等々が補給されては安定化は難しい。アフガニスタンの民族構成は複雑であり、国境も興亡の歴史の中で幾度となく変遷していますが、アメリカがアフガニスタンを安定させたいなら、イランと蹴りあっていてはうまくいきません。

さて原子力ビジネスの中東での展開です。中東を戦争の地から平和の地に転換するという動きです。ここで注意しなければならないのは、原子力ビジネスは、基本的には重厚長大の大企業ビジネスであることです。日本でも原子力発電所の全体を設計・建設できるのは、三菱重工業・東芝・日立製作所の三社だけです。関連機器メーカーは多数に上りますが、全体を作れるのは三社だけです。アメリカでもGEと日本の東芝に買収されたウェスティングハウスだけです。フランスはアレバ社、ドイツはジーメンス社と、各国で一社もあればいいほうです。

これらは巨大産業であり、財界の中核でもあります。
原子力ビジネスの展開は、今年に入って急速に進んでいます。これほどの速度ですすむということは、事前の準備がすすめられていたことを予想させます。いま、今年に入ってからの動きを、イラン情勢を含めて、ざっと確認しておきましょう。

1月15日、アラブ首長国連邦(ドバイやアブダビなどの7つの首長国からなる連邦)は、アメリカと原子力協定を結ぶ。(日経1/17) 

2月2日 政府は新興国を相手とする原子力協力協定締結を促進する方針。この春、韓・ベトナムと交渉を開始。ロシアとはプーチン首相来日時に締結予定。(日経2/2)

3月19日 ベトナムとの原子力協定締結交渉を25日から始める。2010年の合意を目指す。「総額1兆円規模と見られる大型事業の受注を目指す東芝、三菱重工業など日本勢にとって追い風となる」。ベトナムは米・仏とも交渉中。(日経3/19)

4月5日 オバマ大統領がプラハの演説で、クリントン大統領が署名しながら批准に至らなかった、包括的核実験禁止条約の批准を急ぐ意思を表明。

4月9日 イランのアハマディネジャド大統領が、イラン「初の原子燃料製造工場の完成とウラン濃縮に使う新型の大容量遠心分離機の導入を発表した」。また「イランは」いつでも(米欧と)交渉する用意がある。一方的な提案ではなく、敬意と正義に基づくのであれば受け入れる」という。(日経4/10)

4月14日 日本―ヨルダン原子力協定 締結 (日経4/15) 
ヨルダンは2030年にエネルギー自給率100%を目標に2017年に原子力発電所一基の運転開始を目指している。

4月15日 パキスタン外相、日本記者クラブでアメリカとの原子力協定締結に意欲を示す。アメリカにインドと同等の待遇を求めるもの。(4/17日経)

4月16日 イラン外相、麻生首相のアメリカとの関係改善に「イランからも積極的に取り組むべきだ」との発言に対し「友人である日本の言葉は真剣に受け止める。イランとしてもオバマ政権の最近の発言は尊敬の念をもって真剣に聞いている」と発言。(日経4/17)

国際エネルギー機関事務局長田中伸男氏によると、IEA(国際エネルギー機関)は二酸化炭素半減のためには、毎年20基の原発建設が必要と主張している。 またフランスはディジョンの近くにあるフランスの重電機メーカーAREVA(アレバ)社の「主力工場では週7日、一日3交代で原発の主要部品を製造していた」。(日経4/17)

4月17日 産経省は総合資源エネルギー調査会原子力部会小委員会を開き、原子力発電所建設にかかわる日本企業を対象に支援を強化することを決定。原子炉メーカーに限定していた支援の対象を広げ、「部品・機器メーカーなどの技術開発を援助する補助金制度を創設する」。5月にも官民協議会を設立する。またアメリカは2016-18年に4-8基の原子炉を稼動させる予定である。(日経4/17)

4月18日 アメリカのホルブルック・アフガニスタン-パキスタン担当特別代表は、都内で開かれていたパキスタン支援国会合の会食の場でイランのモッタキ外相と「接触した」と日本外国特派員協会で語った。(日経4/18)

4月19日頃 英国エネルギー・気候変動相アドバイザーは、日経の取材に対して、英国の電力会社を買収したフランス電力公社による2017年の英国での原発新設を全力支援するとともに、日本の参加を呼びかけた。また放射性廃棄物は地下封入の方針で、「廃棄物や将来の廃炉・解体の問題は、「化石燃料がもたらすマイナスに比べたら大したことない」」と。(4/20日経)

4月20日 イランのアハマディネジャド大統領は、国連の人種差別撤廃会議でイスラエル政府を「残虐で人種差別的な体制」と批判。(日経4/21)

4月22日 政府開発援助(ODA)に関する2009年度からの重点方針が明らかとなった。中東向け円借款は「ほぼ倍増の千百三十億円」に。これは円借款全体の約十分の一。

4月25日 日経の特集「核軍縮―新秩序への道」においてロシアは「シベリアのアンガルスク核燃料工場を国際ウラン濃縮施設としたい」。英国は「英蘭独合弁ウレンコによる核燃料供給案を発表」。独はどこの国にも属さない「聖域」を設けて燃料施設をつくる案。「原発の着工件数は過去最高水準」。(日経4/25)

4月26日 二階経産大臣は、アラブ首長国連邦のハミリ・エネルギー相に対してその原子力発電所建設プロジェクトへ「官民で協力したい」と述べた。

4月27日の日経は、アメリカが核燃料サイクルを断念したことを報じる。「使用済み核燃料の再処理施設と高速炉の建設計画を取りやめる方針を示した」。

5月7日 オバマ大統領は、ネバダ州ユッカ山地に使用済み核燃料処分場を建設する計画を廃止する。(2010年度の予算教書)。地元ネバダ州で反対が強く、大統領選挙で廃止を公約。(日経5/8)

そしてロシア・プーチン首相の来日。日露原子力協定が結ばれました。

こういう協定は、いきなり結ばれるものではありません。

平成19年10月23日、ラヴロフ・ロシア連邦外務大臣と高村正彦外務大臣の会談が日本で行われました。そこで行われた意見交換の記録に「(2)原子力協力協定 両国の互恵的な協力分野である原子力協力の発展のため、平和利用の確保に配慮しつつ、原子力協力協定の早期締結に向け、交渉を加速することで一致した。この関連で、第3回交渉が11月9日、10日に東京で開催される予定である。」とあります。
http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/russia/visit/0710_kg.html

(つづく)

posted by 坦々塾事務局大石朋子 at 09:34| Comment(2) | ゲストエッセイ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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