2009年04月25日

日本国家の『形』を求めて <第三回>

 日本国家の『形』を求めて <第三回>
     ―日本外交再生への提言

   坦々塾会員 馬渕 睦夫  防衛大学校教授
          (前ウクライナ兼モルドバ大使)

  ポスト・グローバリゼーションの日本外交
 

 米国のサブプライム・ローン問題に端を発する世界金融危機は、物質中心文明の転換をもたらす契機になったと言っても過言ではないであろう。現在世界的に生起しつつあるかかるパラダイムシフトを奇貨として、日本はその外交政策を再構築すべきである。すなわち、短期的には経済危機に対応する対症療法的施策は必要であるが、同時に世界文明のパラダイムシフトに率先して世界に向かって新しい世界のあるべき姿を発信してゆく姿勢が求められていると言えよう。新しいパラダイムの下での世界のあるべき姿は、日本がこれまで地道に努めてきた世界の諸国を大国であれ小国であれ、対等にみなして付き合うという平等観に基づく世界秩序である。この平等の精神は「弧」外交に明示的に受け継がれている。では、なぜ国家は平等なのか。国連でどの国も一票を持っているからではない。それぞれの国が持つ固有の文化、伝統、歴史の意義は大国であれ小国であれ等しい価値を有し、そこに上下優劣はないことによっている。どのような国もこの地球上に存在する意義があり、その存在価値は等しいという哲学である(ただし、このことはどのような政権でも等しく存在価値があることを意味しないのは、当然である)。古くは、日露戦争における日本の勝利が当時の植民地諸国に独立への希望を与えたこと、第一次世界大戦後のベルサイユ会議において、ウィルソン大統領の詭弁によって採択には至らなかったが、日本が提出した人種平等提案が多数の支持を得たこと、また戦後日本の政府開発援助(ODA)等の施策がアジア諸国を経済的に離陸させる効果をもたらしたこと等、歴史の教訓に思いを馳せれば、今日日本が世界に向けて発信すべきメッセージの内容はもう明らかとなっている。今や競争至上主義や市場原理主義に基づく国づくりは、明確に修正されざるを得ない。なぜなら、これらは何よりも人間の倫理の崩壊をもたらしたからである。経済活動の自由は尊重されなければならないだろうが、儲け第一主義、株主資本主義は誤りであったこと、道義的にはもちろん、経済的にも誤りであったこと(資源の最適配分の観点から)が白日の下に晒されたからである。

 「弧」に属する諸国はこれから新しい国づくりにあたるので、欧米先進諸国のこのような失敗を繰り返さないような国づくりが求められる。他国の失敗から学べるという意味で、彼らは恵まれていると言える。ポスト物欲主義の国づくりはどうあるべきか。一言で言えば、倫理に基づく社会経済体制の構築であろう。古くから日本人は経済活動を自己の精神修養と同一化してきた。日本人のものつくりが世界に冠たる成功を収めたのはこのゆえである。2007年秋に外務省の招待により訪日した、ウクライナ最大の日刊紙「デニ」のイフシナ編集長は、自らの長文の日本滞在記を次のように結んでいる。「日本滞在の最終日、何が一番気に入ったかと聞かれ日本人と答えた。なぜなら、日本にある素晴らしいものは日本人の手でつくられたばかりでなく、日本的な精神が宿っているからである」。

 「弧」に属するモルドバのストラタン外相が昨年1月訪日した際、彼は日本を絶賛した。滞在はわずか2日に過ぎなかったが、巨大都市東京が見事に秩序だって運営されている様に、感心していた。また、高村外務大臣(当時)はじめ街角ですれ違っただけの人々に至るまでが示した遠来の客に対する温かいもてなしの気持ちは、日本がモルドバのような小国(日本の十一分の一の広さ)でも大切に扱っていることを実感したものと、接遇にあたった私は感じ入った次第である。これは、同外相自身が気づいたかどうかは別として、日本が近代化と伝統文化を両立させている一つの例であり、上記のイフシナ編集長の印象とあわせ、日本は自らの形に自信を持つべきであろう。外交は国益の推進であり、権力政治の世界の中でいかに日本の国益を守り拡大してゆくかが求められていること自体は、いかにパラダイムシフトが起こっても急激に変わることは予想できない。とはいえ、今後国際社会の場にあっては、道義や倫理が持つ比重が高まってゆくと思われる。国益の追求にあたっては、これまで以上に公正さに配慮することが必要になってこよう。つまり己の利益だけを追求するだけでは、自らの利益の確保すらままならない世界になってゆくことと思われる。平たく言えば「分かち合い」により共存、共栄を図ることが必要となる世界である。

     (つづく)
posted by 坦々塾事務局大石朋子 at 13:15| Comment(0) | ゲストエッセイ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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